はじめに|なぜこのテーマが大事なのか?
ダイエットを始めようとすると、必ず出てくる疑問があります。
「筋肉を増やした方がいいのか、それとも脂肪を先に落とすべきか?」
僕自身、理学療法士として運動療法を指導してきた経験、そして自分自身の減量経験から、
この問いには明確な答えがあると感じています。
この記事では、
- なぜこの疑問が生まれるのか?
- それぞれの選択にどんなメリット・デメリットがあるのか?
- そして、あなたが最短で成果を出すために「今やるべきこと」
を、わかりやすく、順番に整理していきます。
まず押さえておきたい|筋肉と脂肪の関係
● 筋肉が増えれば代謝は上がる。でも…
たしかに、筋肉量が増えると**基礎代謝(何もしなくても消費されるエネルギー量)**は増えます。
これはダイエットにおいて大きな武器になります。
しかし。
筋肉を増やす(いわゆる「バルクアップ」)ためには、摂取カロリーを余らせる必要があります。
つまり、脂肪も一緒に増えやすいというリスクがある。
特に、もともと体脂肪率が高め(25%以上)の人が「筋肉を増やすために食べる」と、
筋肉より脂肪の方が先に増える可能性が高くなります。
● 脂肪を落とすにはカロリー制限が必須
脂肪を落とすためには、消費カロリー>摂取カロリーの状態(カロリー赤字)を作る必要があります。
これ自体は、運動療法でも基本中の基本です。
ただし、カロリーを減らすとエネルギー不足に陥りやすく、
筋肉も一緒に削れてしまうリスク(カタボリック)も高まります。
だからこそ、ダイエット中には高たんぱくな食事+適切なトレーニングが必須になるのです。
● リコンプ(脂肪減+筋肉増)ってできるの?
最近よく耳にする「リコンプ(Recomposition)」、
つまり「脂肪を落としながら筋肉を増やす」という現象は、
- 筋トレ初心者
- 体脂肪率が高め(20〜30%)
- 適切な栄養・トレーニング管理ができている
という条件がそろったときに、比較的起こりやすいことがわかっています。
(参考:Longland et al., 2016/Helms et al., 2014)
しかし、リコンプは「万人に自然に起こるもの」ではありません。
明確な設計(栄養・運動・休養)がないと再現は難しいのが現実です。
体脂肪が高いなら、先に“削る”が正解
● なぜ「削る→増やす」の順番がいいのか?
体脂肪が高いと、
- テストステロン(筋肉を作るホルモン)が低下しやすい
- インスリン感受性が悪化し、栄養が筋肉に届きにくくなる
つまり、身体の「筋肉を増やすエンジン」が弱っている状態です。
この状態でバルクアップ(増量)に入ると、
筋肉より脂肪ばかりが増えてしまうリスクが高くなる。
これでは、長期的に見て遠回りになります。
では、具体的にどう進めればいいのか?
理学療法士の立場から、負担を最小限に抑えながら最大限効果を引き出す方法を提案します。
■ 食事管理の基本
- スタートカロリー:維持消費量から**−20〜25%**
- タンパク質:除脂肪体重(kg)×2.3〜3g/日
- 脂質:体重×0.8〜1g
- 残りは炭水化物
👉 筋トレ前後は炭水化物を多めに摂る(パフォーマンス維持のため)
■ トレーニングの基本
- 週2〜3回、全身を使うトレーニング(フルボディ)
- 各種目:6〜12回×3〜4セット
- 重要なのは「扱っている重量を落とさない」こと
👉 減量中でも筋力を維持できれば、筋肉量も守れている可能性が高い。
■ 有酸素運動について
- 有酸素が苦手なら、1日7,500〜10,000歩の歩数で十分代替可能。
- 気が向いたら、軽いHIIT(短時間・高強度インターバルトレーニング)も◎。
👉 大事なのは「嫌にならない範囲で動き続けること」。
【まとめ】まず削る。その後、増やす。
- 体脂肪が高い人ほど、先に脂肪を落としたほうが筋肉づくりもスムーズにいく
- 減量中でも、食事・筋トレ・回復を工夫すれば筋肉は守れる
- 焦らず、今の自分に必要なステップを積み上げていくことが成功の近道
この記事が、ダイエットを始めたばかりのあなたにとって、
最初の「正しい選択」のヒントになれば嬉しいです。
引用文献・参考資料一覧
- Longland, T. M., Oikawa, S. Y., Mitchell, C. J., Devries, M. C., Phillips, S. M. (2016).
Higher compared with lower dietary protein during an energy deficit combined with intense exercise promotes greater lean mass gain and fat mass loss: a randomized trial.
[American Journal of Clinical Nutrition, 103(3), 738-746.]
→ 高たんぱく食+カロリー赤字で「脂肪減+筋肉微増」が可能なことを示した研究 - Helms, E. R., Aragon, A. A., Fitschen, P. J. (2014).
Evidence-based recommendations for natural bodybuilding contest preparation: nutrition and supplementation.
[Journal of the International Society of Sports Nutrition, 11, 20.]
→ 減量期におけるたんぱく質摂取量の推奨(LBM×2.3〜3.1g)をまとめたガイドライン - Kelly, D. M., Jones, T. H. (2015).
Testosterone and obesity.
[Obesity Reviews, 16(7), 581–606.]
→ 肥満によるテストステロン低下のメカニズムをまとめたレビュー - D’Souza, R. F., Markworth, J. F., Aasen, K. M., Zeng, N., Cameron-Smith, D. (2018).
Obesity impairs skeletal muscle protein synthesis response to nutrition and exercise.
[Frontiers in Physiology, 9, 1288.]
→ 肥満が筋タンパク合成(MPS)反応を鈍らせる「アナボリックレジスタンス」の解説 - Schoenfeld, B. J., Grgic, J., Ogborn, D., Krieger, J. W. (2019).
Strength and hypertrophy adaptations between low- vs. high-load resistance training: a systematic review and meta-analysis.
[Journal of Strength and Conditioning Research, 33, S1-S18.]
→ 筋トレ頻度やボリューム(総セット数)が成果に与える影響をまとめたメタ分析 - Wolfe, R. R. (2006).
The underappreciated role of muscle in health and disease.
[American Journal of Clinical Nutrition, 84(3), 475-482.]
→ 筋肉量と代謝健康(基礎代謝・脂肪燃焼)の関連についてのレビュー
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